山崎浩自主制作本とカラー印刷

山崎浩

今日、マンガ原稿はCGで描く作家が増えてきましたが、数十年に渡る歴史において、原稿の色合いをいかに再現するかが、大きな問題となってきました。
初期の色指定と印刷屋による製版作業だった時期からくらべれば、マンガ雑誌黄金期の印刷はかなりましになっていました。それでも、二十数年前のマンガ雑誌では白色度の低くにじみやすい用紙に印刷されることが多く、それこそ色の再現はもちろん保存に耐えないことすら多かったわけです。
CGで製作しているマンガ家は、RGB表示でバックライトのモニターと実際のCMYK(あるいは特色を加えた多色刷)印刷のギャップを克服している人は少ないですし、家庭用のプリンタで印刷しても実際の商業印刷とは仕上がりが大きく異なります。
一方、アナログの場合もカラーインクやマーカーの鮮やかな色は、再現が不可能でした。(これは顔料や染料の性質の違いもあるからしようがないんだけど…)
おそらく、不透明水彩による彩色が原稿としての見栄えや、鮮やかさでは劣るのだけど、一番描いた画稿と印刷のギャップが少ない技法だとぼくは確信しています。
さて、不透明水彩による淡彩で描かれた山崎浩さんのカラー原稿ですが、雑誌や単行本のカラー印刷でしか知らない読者にとっては、それはそれでよいものと感じていたと思います。
ぼくも実際に山崎さんの生原稿を見るまではそう思っていたぐらいですから…。
マンガ雑誌の編集者もゲラ(試し刷)を原画と見比べて丹念にチェックし、精一杯再現に努めるのですが…。商業誌のカラー印刷は精度よりスピードが優先されるため、ゲラは美しかったけど、実際の印刷はあまりよくない、なんてことはしばしばあります。
さて、同人誌印刷業者のカラー印刷は、格安の代わりに基本的に色校正作業はなく、実際の本が仕上がってみて初めて、どうなったかわかるという、非常にスリルのあるものです。
ぼくは山崎さんのカラー作品をずいぶん前にお借りしていて、スキャニングを行ないデータを編集し、本を作っています。どのみち、原稿と印刷を見比べることはできないので、いいんですけど、やはり怖い。
入稿時に出力見本が必要なこともあり、モニターでチェックしきれないミスをなくすための校正の意味もあって、最低でも2部ずつ、業者で出力をおこなっています。
こちらにあるレーザープリンタは、商業印刷の簡易校正や広告のカンプに使用される高品位のものですが、実際の印刷よりも鮮やかに出る特性に調整されています。
美しいのはよいのですが、やや大味、原稿と色味がだいぶ違うものです。
結局、どんな色に仕上がるかは印刷までわからないのですが、これまでカラーをデータで入れた印刷所の仕事ぶりには満足しています。(金沢印刷さん、どうもありがとう!)
雑誌や単行本で見たどのカラーよりも色の再現はいいし、美しい。
データ入稿だとスキャナの感度が良すぎて、写植の印画紙の色まで拾うので、処理作業に時間がかかりますが、まったくいい仕事しています。
『ふしぎふしぎ』単行本をお持ちのかたはぜひ見比べください。本当は単行本未収録作品に絞って出すつもりだったのに、カラー作品では再録することもあるのは、
良い印刷で山崎さんのカラー作品を見たいからという個人的動機が原動力なんです。はい。

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